カツオ「姉さん……それはタラちゃんじゃないよ」@

1 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 00:52:44.16 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
タラちゃんが交通事故で亡くなり、一年が経っていた。
今だに姉さんはショックから立ち直れないでいる。
だけど傍から見れば以前となんら変わりのない元気な姉に見えるだろう。
それは、姉さんの中では全てが以前のままだからだ。

サザエ「なに言ってるのよカツオ、タラちゃんならここにいるじゃない」

ボロボロになった縫いぐるみを抱いた姉は、それを我が子だと信じているのだった。



6 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 00:55:17.51 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
カツオ「何言ってるんだよ姉さん、しっかりしてよ……」

サザエ「私はしっかりしてるじゃない、あんたこそ顔色悪いわよ、ねえタラちゃん」

姉さんは同意を求めるように腕の中の縫いぐるみに微笑みかける。

もちろん縫いぐるみは何も答えない。

サザエ「今日の夕飯はハンバーグにしようかしら、カツオが元気になるように」

カツオ「わ、わーい……やったー」

サザエ「タラちゃんも好きよね、ハンバーグ」

もちろん縫いぐるみは何も答えない。


8 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 00:57:36.37 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
サザエ「カツオ、私は夕飯の支度をするからあんたはタラちゃんと遊んでてくれる?」

カツオ「わかった……じゃあ、あっちで遊ぼうか、タラちゃん」

僕は姉さんから縫いぐるみを受け取る。
抱き抱えるとだらりと四肢が垂れた。
僕はそれを持って自分の部屋へと向かう。
とても姉さんの視線が届くところにはいられなかった。


9 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 00:59:56.62 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
カツオ「ワカメ……ここにいたんだ」

ワカメ「うん、……あ」

ワカメは振り向き僕の手にある縫いぐるみに視線を向けると、僅かに表情を強張らせた。
縫いぐるみを息子だと思い込む姉について、どう思っているのか話合ったことはない。
しかし、一時期のふさぎ込んだ姉さんの姿よりは今の方がよいのでは、と考えているのは同じだろう。


12 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:01:57.86 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
ワカメ「お兄ちゃん、それ……」

カツオ「ああ、姉さんがタラちゃんと遊んでろってさ」

ワカメ「ちょっと貸して」
カツオ「あ」

ワカメ「ここ、ほつれてきてるわ、直さないと……」

縫いぐるみは姉さんが四六時中連れ回しているせいか、ずいぶんとボロボロになっていた。


16 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:03:31.98 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
男の子の形を模したその縫いぐるみは、タラちゃんに似ていたからつい、と父さんが買ってきたものである。

タラちゃんが死んでから一ヶ月程経った頃のことだった。
皆はそれを見せたら姉さんがタラちゃんを思い出してよけいに悲しむのではないか、と懸念していたが、事態は予想外の方向へ向かった。

サザエ『あら、タラちゃん!こんな所にいたのね』

仏壇の近くに置いていたその縫いぐるみを、姉さんが明るい声を出しながら抱き上げたのだった。


18 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:05:02.55 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
久しぶりに見る姉さんの笑顔に、家族は皆喜んだ。
タラちゃんを失った悲しみは癒えはしないだろうけど、しばらくはこの縫いぐるみで気を紛らわせるのではないかと思った。

一日中暗い部屋に篭り、ろくに食事もとれないような生活になっていた姉さんは、その日から変わった。
いや、元の姉さんに戻ったのだ。

タラちゃんという存在が欠け、崩れていたバランスが縫いぐるみによって埋められたからである。


21 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:07:00.40 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
姉さんは縫いぐるみにタラちゃん、と呼びかけまるで本当の子供のように接した。
皆、始めの頃はそれを暖かく見守っているだけだったけど、それが一月経ち、二月経ち、
変わらず縫いぐるみを可愛がり続ける姉さんが、さすがに不安に思えて来た。

ある日のことである、ついに母さんが姉さんから縫いぐるみを取り上げようとした。


25 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:10:17.85 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
フネ『サザエや、もういい加減にしたらどうだい』

サザエ『え、何が?母さん』

フネ『これは……』グイッ

サザエ『ああっ、駄目よそんなに乱暴にタラちゃんを引っ張っちゃ!』

フネ『これはタラちゃんなんかじゃないのよ……』

サザエ『あ、ああ……』

フネ『分かってくれたかい?』


サザエ『ほら母さん、タラちゃんが痛がってる!離してあげて!』

フネ『サザエ……』

サザエ『大丈夫?タラちゃん』


32 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:13:32.81 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
姉さんはすっかり縫いぐるみをタラちゃんだと思い込んでいたのだ。

その件以来母さんは姉さんのことには触れないようになってしまったし、
他の家族も、もっと時間が経てば、元に戻るだろうと楽観的に考えていた。
それにどうしようも無かったのだ。

父さんと母さんは古い人で、姉さんを精神科に連れていくことを決断しかねていた。
マスオ兄さんも我が子を失った悲しみは深く、自分以上に傷ついている妻を狂人扱いすることは出来なかったのである。


37 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:15:55.36 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
そうして今に至る訳だが、一年近く使われ続けている縫いぐるみは所々ガタが出てきている。
ワカメや母さんが、姉さんの目の届かない所で直しているのだが、いずれ限界がくるだろう。

カツオ「それ、まだ大丈夫そうかい?」

ワカメは頭部に綿を詰め足しながら曖昧に頷いた。

ワカ「うーん、そろそろ危ないかもしれないわね」

薄汚れた縫いぐるみがワカメの手の中でグラグラと揺れている。

カツオ「姉さん……それはタラちゃんじゃないよ」Aへ続く
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