「あれ?エレベーター止まったな」D

374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:09:34.26 ID:PA8/+Gq2P
幼女「……」

男「……」

そして、そのまま数日がたった。

互いにしゃべることもなくなり、幼女は仰向けになって呼吸だけをしていた。

この数日で、彼女は何度か過呼吸になったこともあった。

それは空腹やストレスによるものだと思う。

幼女「……」

酒だけで命を繋いでいたが、それが今ではもう無くなってしまっている。


(……)

顎に伸びたヒゲ。もう何日も剃っていない。

天井の非常用の白熱球。それは今にも切れかかっていた。

恐らくあと数日で、寿命を果たすだろう。

外の様子はどうなっているのだろうか、そんなことを考えながらただ床をみつめていた。

いつになったら、助けがくるのか…どうして誰も助けにこないのか…。

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:15:12.64 ID:PA8/+Gq2P
男「……」

そして、気付けば立ち上がっていた。

ガクガクと震えた足でなんとか体制を保ち、壁に背中を預ける。


男……抜け出そう」

かすれた声で、そう言った。

自分でも分かる程の、本当に弱々しい声だった。


(もし仮に落ちても…)

それでも良い。

死んでもいい――そんな気さえしてきた。


そして顔を向けた先には……こくん、と小さく頷く幼女の姿があった。

彼女の手を引っ張り立ち上がらせる。

399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:19:01.06 ID:PA8/+Gq2P
彼女はふらふらとした足取りで、自分の背中に歩きより、もたれかかるように男の背中にしがみ付いた。

幼女「…ん」

そして、幼女を背負う。

前におんぶしたときよりも、さらに軽くなっている気がした。

(……っ)

途端に、涙が溢れそうになった。

幼女「どうしたの…?」

しばらく背中を震わせていると、今にも消えかかりそうな声で幼女はそう言った。

男「…なんでも、ないよ」

そして、命一杯の力を振り絞り、エレベーターの扉を開けようとした。
しかし、開かない。ここ数日何も食べていないせいか、力が入らない。

男「ぐぅ…くそ…っ」

そして、非力な腕で、最後の力を振り絞って扉を開けると――

男「あ…れ…?」

扉を開けた途端、明かりが差し込んできた。


421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:24:31.01 ID:PA8/+Gq2P
男「これは…」

いくつもの照明が点灯していた。

メンテナンス時に使われる非常用のものだった。

何かの偶然か、それが点いていた。


(今なら……)

いけるかもしれない。明かりさえあればなんとかなる。

助かった……。


男「よし、いくぞ…」

幼女「うん…」

強い風が吹き上げる中――俺は鉄骨に一歩足を踏み入れた。

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:29:02.15 ID:PA8/+Gq2P
幼女「……」

幼女の背中に掴る腕が、少し強まった。

まず、鉄骨に足をかけ…手を離し…隣の鉄骨につかまった。


そのまま滑り……下の階へと移動しようとした。

その時だった。


幼女「きゃ――っ!」

幼女のしがみ付いていた腕の力が緩み、深い闇の奥底へと落ちそうになり――

男「く…っ」

頭が真っ白に染まった。しかし、なんとか幼女の腕をつかんだ。

(ああ…駄目だ)

しかし、その反動で俺の体が傾き…

――もう駄目なんだ、と。

彼女の澄んだ瞳に映し出される、絶望して諦めた俺の顔。

それを見つめながら、そんなことを思った。

442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:35:23.16 ID:PA8/+Gq2P
もう、どうにもならないんだ、
どうしようもないんだと。

哀しさのような、悔しさのような気持ちに囚われながら…闇の中へと落ちていった。

最初はふわり…としたものに包まれると、それはすぐに強烈な落下感に変わる。


幼女「――――っ」


彼女は、言葉にもならないような声をあげていた。

吹き上げる風を切りながら、深い闇の中へと落ちていく俺達。


そして、俺は幼女を抱きしめていた。

最後まで彼女を救うことができなかった。

なら、自分が身代わりになってやればいい。そう考えた。

自分が幼女の下敷きになれば、彼女を助けられるかもしれない、と。

448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:38:12.78 ID:PA8/+Gq2P
「…――」

地面に衝突するまであとどれくらいなのだろう。

死に間際のせいか、やけに長く感じられた。


辺りが暗い闇に包まれ、何もみえなくなった。

非常照明の届かない位置まで来た。


もうすぐ地面に衝突する。

男「……」

幼女「……っ」

しっかりと幼女を抱きかかえながら、
目を瞑り――そして…



男「――っ!!」

勢いよく目を開き、ガバッと起き上がった。

視界に映ったのは、見知らぬ部屋だった。

463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:41:21.40 ID:PA8/+Gq2P
真っ白な天井――真っ白な部屋。

穏やかな風になびくカーテン。


男「……」

(もしかして…夢だったのか?)

しかし体に走る猛烈な痛みで、それは違うことが分かった。

自分の寝ているベッド…。視界に映る真っ白な部屋。

恐らく、ここはどこかの病院なのだろう。


ということは…、助かったのか?

声を出すことはできなかった。

なんとも言えない空腹感のせいでもあったが、電流のように走る激痛がそれを忘れさせてくれた。

481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:47:27.87 ID:PA8/+Gq2P
曖昧な記憶を探って、すべてを思い出そうとする。

たしか、あのまま落下して…地面に衝突して…。

どう、なったというのだろう?


やがて看護婦やってきて、男が目を覚ましたという報告をしに行った。


そしてしばらく経った後、病室に刑事が入ってきた。





その刑事から、色々なことを聞いた。

何らかの故障でエレベーターが動かなかったこと。

人が閉じ込められている事を、管理側が知らなかったこと。

494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:52:28.88 ID:PA8/+Gq2P
そのエレベーターの修復が困難な状況であったこと。

自分は転落して地面に衝突し、なんとか一命を取り留めたこと。

そして――



一人の女児が、遺体で発見されたこと。

気を失った俺の隣に、横たわっていたらしい。


男「……そん…な…」


どうしても、信じられなかった。

みるみる内に悔しさのような、哀しさのような渦巻いた感情が頭の中を浸食して行き、

気付けば自分は泣いていた。

516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 00:56:38.97 ID:PA8/+Gq2P
どうして、こんな運命になってしまったのか。

どうして俺は、彼女を守れなかったのか…。

俯いたままでいると、刑事が後日また詳しく話したいと言った。






男「……え?」

数週間して退院した後、俺は刑事に部屋に連れられ、映像をみせられた。

あの閉じ込められていた時の、保存されていた監視カメラの記録だった。

その映像の内容が、どうしても理解できなかった。


男「なん…だ……これ」


映像に映っている自分の姿。“見えない誰か”と喋っている自分の姿。

562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 01:00:25.68 ID:PA8/+Gq2P
何もない空間と何らかのやりとりをしている自分の姿。
何もない床にビールを撒き散らす自分の姿。
見えない何かを抱きしめるような自分の姿――。

背筋を伝って寒気のような、吐き気のような感覚が込み上げてきた。


(幻覚?――)

そんな馬鹿な話が?

いや、待て…、
エレベーターの地下内部へ衝突した後、遺体で発見された少女。

その子は一体、誰なのか?


男「…遺体で発見された少女は、一体誰なんですか…?」

刑事「男さん、その女の子の遺体についてですが」


『白骨化』


死亡推定時刻は、10年以上前。
先日発見された時には、もうその状態だったらしい。

600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 01:05:28.49 ID:PA8/+Gq2P
「もう10年前以上前のことですが…」
 
 
その少女は、小学校の同級生らとマンションでかくれんぼをしていた。

しかし彼女は隠れたまま現れず――そのまま行方不明。

世間では神隠しだと騒がれ、未解決事件のまま。


男「……」

確かに、覚えていた。

10年ほど前、あの日…あのマンションにて、かくれんぼをしていたメンバー。

その中に、自分も交じっていたことを、俺は覚えている。

あの時は、俺がかくれんぼの鬼だった。

俺は全員を見つけ出した。しかし、彼女だけは…。彼女だけは夕方になっても姿を現すことはなかった。


その後、各自の親と学校の担任が駆けつけ、捜索に当たっていた。

それでも彼女はみつからないまま――。

628 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 01:09:28.16 ID:PA8/+Gq2P
「それではお疲れ様でした。また後日改めて連絡します」


その日、みっちりと調書を取られた後、俺はようやく開放された。

署を出ると、辺りは夕暮れに包まれていた。

男「……」

夕日に照らされながら走り回る子供たちを尻目に、俺はぼんやりとしたままだった。


刑事の話によると、エレベーターが止まったのは何らかの故障だというが、その原因が分からなかったらしい。

ただ電源が落ち、いつまでも復旧しなかったとか。

そして、あの監視カメラ。本当は外部とつながっていたはずなのに、映像を受信できなかったらしい。

(……)

もしかしたら――あの子は…ずっと見つけてほしかったんじゃないか?

ふと、そんなことを思った。

646 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 01:11:50.44 ID:PA8/+Gq2P
あの日、かくれんぼの鬼だった自分に、見つけてほしかったんじゃないだろうか?

この10年間以上、あんな暗く深い闇の中で、誰にも見つけてもらえずに、いったい彼女はどんな気持ちで過ごしてきたのだろう。

こんな、変わり行く時代の中を――たった一人で。


男「……」

そして、自分を見つけてもらえて――彼女はそれで幸せだったのだろうか。

そんな事を考えながら、夕日を空を見上げて俺は歩き出した。

ふと目をやると、夕焼けの片隅に宵闇が現れ始めていた…。この世界の全てを覆い尽くそうとでもいうように。
俺はある日エレベーターに乗っている時、色んなことを考えている。
 
家族、友人、将来の夢…。

そして、長い間かくれんぼで見つけてもらえなかった1人の少女のこと。
 

あなたはエレベーターに乗っている時、どんなことを考えていますか?

-終わり-
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