カツオ「姉さん……それはタラちゃんじゃないよ」A

43 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:19:41.62 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
綿を詰め終わり、開いた部分を針と糸で縫い合わせるワカメの手元を僕はぼーっと眺めていた。
何度もやっている作業のため、スムーズに動く針の動きに見とれていると不意に首筋に視線を感じたような気がした。

カツオ「……誰?」

僕は勢いよく振り向く。

瞬間、ぴしゃりと襖が閉められた。
それを開いて後を追い掛ける勇気は僕には無かった。

ワカメ「どうしたの……?」

カツオ「あ、ああ……誰かが覗いてたみたいだったからさ」

ワカメ「もしかして……!?」

カツオ「大丈夫だって……それは、ない……よ」

そんな根拠はどこにもないのだけれど僕は掠れる声で呟いた。

カツオ「姉さんの訳……ないじゃないか、はは」


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:21:13.01 ID:/Y1jLr0sO
なんか怖いな


50 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:22:24.58 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
やがて母さんの声に呼ばれ、僕とワカメは夕食の席に着いた。

カツオ「さ、さあタラちゃん、姉さんの所に行きなよ」

僕は姉さんの隣に縫いぐるみを置く。
先程のあれは本当に姉さんでは無かったのだろうか。

もし部屋を覗いていたとしたらワカメが縫いぐるみを修理していたのを見ていたかもしれない。
姉さんにとってこの縫いぐるみはタラちゃんなのだ、その体を開き、針を刺す場面などどのように映るだろう。

サザエ「さあタラちゃんいらっしゃい、おいしそうなハンバーグでしょう」

僕は笑顔で縫いぐるみを抱き抱える姉さんに、心の中で安堵のため息をついた。


63 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:25:38.27 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
サザエ「はい、タラちゃんあーんして」

サザエ「おいしい?そう、うふふ」

サザエ「あらー駄目じゃないこんなにこぼしちゃって……」

サザエ「タラちゃんもそろそろ一人で食べられるようにならなきゃ駄目よ」

食卓では姉さんの楽しそうな声が響く。
縫いぐるみは口に押し付けられた食べ物をただボロボロと床に落とすばかり。
最近ではすっかり見慣れた我が家の食事風景だ。


77 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:28:54.96 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
サザエ「あら?どうしたのタラちゃん」

サザエ「もう食べないの?」

サザエ「食欲がないってどうしたのよ」

サザエ「頭が痛いの?うーん、風邪かしら」

サザエ「少しお部屋で横になりましょうか、そうね、それがいいわ」

サザエ「母さん、私タラちゃんを休ませて来るわね」

姉さんから心配そうな言葉が続く、どうやら縫いぐるみの具合がよくないらしいのだ。

フネ「あ、ああ……そうかい」

姉さんは縫いぐるみを大事そうに抱き抱えると、寝室へと向かった。


85 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:31:21.50 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
僕らが食事を終えても、姉さんは戻らなかった。

皆特に気にもせずに、母さんとワカメは食器の片付け、父さんとマスオ兄さんは晩酌を始めていた。
することがなくなった僕は、部屋に戻って漫画でも読もうかと廊下へ歩き出した。

姉さん達の寝室の前を通過する時、妙な音が聞こえてきた。


90 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:33:38.55 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
思わず立ち止まり耳を済ませてみると、その音はどうやら人の囁き声のようだった。
止めておけばいいものを、僕は思わずその場に立ち止まり、耳を済ました。

サザエ「……大丈夫よ、タラちゃん……大丈夫だからね」

どうやら姉さんがタラちゃんを気遣う言葉をかけているようだった。
どこか抑揚を無くしたようなその声に、僕は少しだけ違和感を覚える。


101 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:36:14.10 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
サザエ「大丈夫だからね、すぐに良くなるわよ、すぐに……」

僕頭のの中には、姉さんがタラちゃんに添い寝をしてあげている微笑ましい光景が浮かぶ、ほんの二年前には当たり前だったその光景。

サザエ「ほらね、こうやって悪い所を……」

頭が痛いと言っていたから、撫でてあげているのだろうか。
たとえ全てが姉さんの頭の中で作られた話であっても、当たり前な親子の会話が部屋の中で交わされている。

だけど次の瞬間、頭に浮かんだ微笑ましい親子の図は音もなく崩れさった。

サザエ「痛いところ全部……とってあげるからね」


105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:36:56.18 ID:8ZOluN7sO
ぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:37:23.27 ID:VUy1F1/i0
こ、こええぇエエエエエェェエェェェェェエエエエ


117 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:39:21.12 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
プチプチと何かを引き契るような音が聞こえてきた。
とってあげる、とはいったいなんのことだろう。
縫いぐるみを我が子と思い込んでいるはずの姉さんが、いったいなにをしているのか。

僕の頭の中で警報がなる、早くこの場を離れろ、と。
さもなくば見てはいけないものを見てしまうぞ、と。だけど僕はその場から動けなかった。

サザエ「ほら……これが悪いのよ」

サザエ「悪い物を詰められて……痛かったでしょう?」

サザエ「可愛いタラちゃんに針を刺して……こんなことを……」

サザエ「可哀相に……可哀相に……うっうぅ……」

見られていたのだ。
ワカメが縫いぐるみを直していたところも全部。

僕の背中に、凍り付いてしまったのかのような嫌な感覚が広がった。


144 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:43:04.40 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
サザエ「うっううぅう……」

部屋の中からは姉さんの嗚咽の混じった声が聞こえてくる。
僕は相変わらず一歩も動けないままに、部屋の襖を凝視していた。

その時、不意に肩を叩かれ僕はヒッと情けない、声にもならないような短い悲鳴を漏らした。


159 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:46:34.55 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
ワカメ「お兄ちゃん?何やってるのよ、こんなところで」

カツオ「ワ、ワ、ワカメ……」

いつもの調子で話し掛けてくるワカメに、僕は震える声でようやく答えた。
頭の中では姉さんに気づかれてしまったのではないかということでいっぱいで、一秒でも早くこの場から立ち去りたかった。

ワカメ「母さんにこれを姉さんの部屋にって頼まれたのよ」

ワカメの手の中には水とお粥の乗った盆があった。
母さんが、姉さんに縫いぐるみに食べさせるように、と作ったものだろう。


164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/23(土) 01:48:11.67 ID:8ZOluN7sO
ワカメ逃げてぇぇぇぇぇ


171 :源泉徴収票 ◆IM.RhdmmmE :2009/05/23(土) 01:49:33.11 ID:DSAeDx70O ?2BP(2627)
ワカメ「そこ、開けてお兄ちゃん」

カツオ「……」

僕は瞬時に返事を返すことが出来なかった。
ワカメはまだ知らない、姉さんがさっき僕らの部屋を覗いていたということを。
この部屋の中で起きているであろう事を。

開けてはいけない、そんな予感が頭に渦巻く。
だけどいつの間にか止まっていた姉さんの嗚咽に、先程の声の現実感が薄らいでいた。

中にいるのは僕の姉さんだ、それは紛れも無い真実。
姉さんの部屋の襖を開けることにどんな危険があるものか。

僕は、静かに襖を横に引いた。

カツオ「姉さん……それはタラちゃんじゃないよ」Bへ続く
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