勇者『魔王倒したし帰るか』A

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 11:04:13.97 ID:5Ug8BclXo

勇者「さっき話したように、戦士は真っ先に魔物に突っ込んでいく事を選んだ」

勇者「なので、誰よりも身体に傷を負った」

勇者「誰よりも回復の魔法を受け、誰よりも回復の薬を使った」

勇者「結果、あいつは中毒になったんだよ」

姫様「……中毒?」

勇者「あー、馴染みないか。そりゃまあ、回復魔法もこの辺りの薬草も中毒性は低いしなあ」

勇者「中毒ってのは、それがないと駄目な状態と考えててくれ」

勇者「さてさて、皆さんはこれをご存知ですか?」ちゃぽん

王様「そのビンの中にあるのは一体?」

勇者「だよねー。見たことないよね。これは、魔王城近辺に生えてる特殊な薬草を煮出して凝縮させた、超回復薬だよ」

勇者「こいつは凄いよ。例えば、腕が吹っ飛んだとしても傷口から再生しちゃう。ボコボコーって。トカゲかってーのって感じ」

王様「そのような薬が……」

勇者「まあ、死んでさえなけりゃあこれで治るよ。……身体はね」




10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 11:16:14.26 ID:5Ug8BclXo

勇者「でも、精神はそうはいかない」

姫様「精神……?」

勇者「そう精神。心ともいうかな。そこがね、壊れてくるの」

勇者「この薬はよく効く反面、とても強いんだ。強くて強くて、心をズタボロにできるぐらいに」

勇者「一口飲むと、激しい高翌揚感で何でもできそうになる。実際、傷が治っちゃう訳だし」

勇者「でも、飲んで一時間後ぐらいかな。その辺りから副作用が出始める」

勇者「幻覚が見えてきたり、体の筋肉が弛緩したり、訳のわからないことを叫んだり、身体の中を虫が這いずり回ってるように感じたり」

勇者「そういう状態が半日ぐらい続くんだ」

勇者「だけど、半日もそうしてて魔物に襲われでもしたら一巻の終わりだ」

勇者「だから、こいつの副作用が出始めた頃に、精神を落ち着ける魔法をかけてもらうか、薄くした超回復薬をまた飲んでだましだましやっていく」

勇者「そんな事を続けていった結果、戦士はどうしようもないぐらいに心が壊れちゃった」

姫様「そうなってしまう前に、安全な国に戻って養生することはできなかったのですか!?」

勇者「あー、俺が帰ってくる時に使った移動魔法ね。まあ確かに、あれを使えば一瞬でここには戻れたな」

姫様「だったら!」

勇者「でも却下だ」

姫様「何故!?」




11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 11:23:06.65 ID:5Ug8BclXo

勇者「移動魔法ってのは、移動先が限定されている」

勇者「この城にもあるよね? 移動魔法用の魔方陣」

勇者「だからここには戻れる」

姫様「だから戻れるのなら何故!?」

勇者「じゃあ戻った後は?」

姫様「は? 後といいますと?」

勇者「戻った後、養生して、すっかりよくなった後だよ」

姫様「それは……また魔王を倒すために……」

勇者「どうやって行くの?」

姫様「そ、それは移動魔法で……」

勇者「魔王の支配力が強い場所へ? 魔方陣も無いのに? どうやって?」

姫様「…………」

勇者「っと、いじめすぎちゃった。ごめんね。まあ、この辺りならね、姫様の案でも悪くないのよ」

勇者「でも、24時間どんな時に凶悪な魔物に襲われるかわからないような場所で。更には先に何があるかもわからない場所ではそうはいかないんだ」




12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 11:36:07.52 ID:5Ug8BclXo

勇者「魔物を殺して薬を飲んで、魔物を食ってまた殺して。傷ついて癒してまた傷ついて」

勇者「戦士はさ、薬の副作用で髪の毛なんてぜーんぶ抜けちゃってさ」

勇者「まあ俺ほどとは言えないまでも、それなりにハンサムだった顔とかもどんどん変わっちゃってさ」

勇者「笑うと糸みたいになって、見てるこっちが笑っちゃうような目も、ぎょろぎょろしてギラギラしててさ」

勇者「俺に冗談を言っては豪快に笑ってた口も、半開きでよだれ垂らして、ずーっとブツブツ言ってるようになってさ」

勇者「武器も鎧も盾も兜も、魔物の血で常に真っ赤でさ」

勇者「どっちが魔物なのか、俺にはもうわからなかった」

姫様「…………」

勇者「でさ、魔王の直下にある四天王の一人を倒した時、腕も足も片目も吹っ飛んで、内臓なんかでろーっと見えてる状態であいつ言ったんだ」

勇者「『殺してくれ』ってさ」

勇者「当然、みんな断ったよ。魔法使いなんて、普段は戦士と喧嘩ばっかしてたのに、すげえ泣いてんの」

勇者「涙と自分の傷から出た血でべちゃべちゃな顔でさ」

勇者「『あたしを置いて行かないでくれ』とか『約束したじゃないか』とかさ」

勇者「そしたらさ、戦士ぷるぷる震えながら、目を糸目にして、少し困ったようにさ」

勇者「『ごめんな』って言ってさ」

勇者「あいつら、きっと両思いだったんじゃないかなあ」




13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 11:44:18.96 ID:5Ug8BclXo

勇者「そんで、あいつ俺に『頼む』って言ってさ」

勇者「だから殺した」

姫様「ゆ、勇者様は悪くは……」

勇者「あー、そういうのどうでもいいのよ。ただ、俺が戦士を殺したって事は事実な訳で。それはどうしようもない現実な訳で」

姫様「でも……でもそんなのって……」

勇者「悲しすぎますーって感じかな? ありがとねー。お礼に勇者マークしんてー」

勇者「多分さ、戦士はもう限界だったんだと思うよ」

勇者「最後こそちゃんと喋れたけど、その前なんて『うー』とか『あー』しか言えなくなってたし」

勇者「何度も俺たちを魔物と間違えて攻撃しようとしちゃってたし」

勇者「魔法使いにさ、攻撃しようとしちゃったし」

勇者「ギリギリで気付いて、泣きながら壁にガンガン頭ぶつけたりしてさ」

勇者「みんなが止めても言うこと聞かなくて困っちゃったよ」

勇者「長くなっちゃったね。戦士の話はこんなとこかな」

勇者「次は、魔法使いの話だ」




20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 13:46:47.24 ID:5Ug8BclXo

勇者「さて、魔法使いの死因だけど。よし、じゃあ王様! 魔法使いはなんで死んじゃったでしょー!」

王様「ま、魔物にやられて……」

勇者「ブブー! ふせいかーい! 答えはー……」

姫様「……自殺ではないでしょうか」

勇者「おお、凄いね姫様。だいせいかーい! 勇者マーク進呈! 拍手っ!」

シーン

勇者「なんだよもう。ノリ悪いなぁみんな。まあいっか。それで姫様、どうして自殺だと思った?」

姫様「魔法使いどのは戦士どのを愛されていた。愛する殿方がいない世なればいっそ……」

勇者「なるほどなー。うん、それも一つの理由だろうね」

姫様「では、他に理由があると?」

勇者「さあ? どうだろね」

姫様「はぐらかさないで下さい!」

勇者「だってさ、本当にわからないんだよ。わからなかったんだ俺達には」




21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 13:51:30.55 ID:5Ug8BclXo

勇者「戦士が死んでから、魔法使いは目に見てわかるほど変わったよ」

勇者「まあ、俺らみんな見た目なんて変わっちゃってたし、頭もどっかぶっ壊れてはいたんだけど」

勇者「でも、そういうんじゃなくて、魔法使いは……なんていうか、憎かったんだと思う」

王様「憎かった……魔王がでしょうか?」

勇者「魔王も含めてかな」

王様「魔王も含めて?」

勇者「うん。魔王も、魔物も、自分を置いて死んだ戦士も、戦士を救えなかった俺らも、自分も、きっと人間も」

姫様「そんな……」

勇者「きっと、全部全部憎くて憎くてたまんなかったんだと思う」

勇者「世界中が憎かったんだと思う」




22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 13:56:09.90 ID:5Ug8BclXo

勇者「魔法使いの使う魔法ってさ、結構えげつないのよ」

勇者「広範囲を爆破したり、でっかい炎で焼き尽くしたり、吹雪を呼んだりさ」

勇者「でも、あいつは戦士が死んでから、使う魔法なんかも変わったんだ。なんだと思う姫様?」

姫様「……魔法のことはよくわかりませぬ」

勇者「ですよねー。普通に生活してたら、あんま馴染みないもんね攻撃魔法って」

勇者「えっとね、毒や酸の魔法をよく使うようになったんだ」

姫様「毒や酸ですか?」

勇者「うん。でね、ピンとこないかもしんないけれど、この魔法って凄いのよ」

勇者「まず酸だけど、魔法で造り出した強力な酸って、多分みんなが想像してるよりずっと怖い」

勇者「地面とか溶けちゃって穴が開いちゃうし、これを敵に当てたら……ね?」

王様「…………」ゴクリ

勇者「悲鳴がね、耳から離れないんだ」

勇者『魔王倒したし帰るか』Bへ続く
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -