勇者『魔王倒したし帰るか』B

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:00:09.99 ID:5Ug8BclXo

勇者「腕が、足が、指が、目が、耳が溶けていく魔物の悲鳴」

勇者「最初に話したけど、魔王の城に近ければ近いほどに魔物の知能は上がっていく」

勇者「人の言葉でね、俺達の使う言葉でね、泣き叫ぶんだ」

勇者「魔物を食べるって話をしたじゃん? あれはさ、ある意味、まだマシなのかもしれない」

勇者「だってさ、生きるためじゃん。食べないと死んじゃうから殺して食べる」

勇者「動物が動物を殺して食べる。世界の正しいあり方なのかもしれない」

勇者「だけど、魔法使いは違った」

勇者「苦しめたいからコロす。憎いからコロす。コロしたいからコロす」

勇者「狂った殺人鬼のでっきあっがりーってもんですよ」

姫様「う……ひっぐ……」

勇者「ありゃま、泣いちゃった。まずいなー、俺フェミニストなのに。ごめんなー」




25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:04:52.94 ID:5Ug8BclXo

勇者「でだ。毒の魔法なんだけど」

勇者「これは酸の魔法なんかよりえげつなかった」

勇者「王様も姫様も、ここに集まったえらーい人たちも知らないかもしれないけれど、魔物だって集落みたいなものを作ってるんだ」

王様「なんと……」

勇者「意外だった? でもさ、知能は人並、下手したら人よりも知能があるかもしれない生き物が沢山いるわけよ」

勇者「それに、オスもいればメスもいる。それがいるなら子供だってできる」

勇者「子供の魔物は当然大人なんかよりは弱い」

勇者「だから寄り集まって、集団生活をしたりする」

勇者「人となんら変わりはないよ」




27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:25:11.48 ID:5Ug8BclXo

勇者「魔法使いは、そんな集落で毒の魔法を使った」

勇者「正確には、集落の近くの河や、集落の中にある井戸水に」

勇者「当然、阿鼻叫喚の地獄絵図ですよ」

勇者「魔物にだってオスもいればメスもいる。子どももいれば年寄りもいる」

勇者「強いものも弱いものも混じって沢山いる」

勇者「それを別け隔てなく、魔法使いは皆殺しにした」

勇者「そして、そんな地獄で魔法使いは笑ってた」

勇者「魔法使いってさ、さっきも話した通り、元々は箱入りのお嬢様なんだよね」

勇者「だから冒険に出た最初の頃は、笑い方も『オホホホホー』みたいな変な笑い方でさ」

勇者「そんな変な笑い方を見て、俺や戦士がちょっかい出して、真っ赤に怒った魔法使いを、困った顔で僧侶がなだめて」

勇者「そんな時もあって……楽しかったなあ」




28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:27:56.31 ID:5Ug8BclXo

勇者「おっと、話が逸れた。駄目だね、思い出を話すと、紐づいて色んな思い出が溢れてくる」

勇者「でだ、集落での魔法使いは、お嬢様だとは思えない顔でゲタゲタ笑ってた」

勇者「とっくに狂ってたんだ」

勇者「そして、そんな彼女を見ても何も感じない俺も僧侶も」

勇者「とっくにみんな狂ってた」

勇者「血の海を見ながらゲタゲタ笑う魔法使いを他所に、俺達はのろのろと食料をあさってガツガツ貪り食った」

勇者「僧侶は泣いてた気もする。俺も泣いてたのかもしれない」

勇者「魔法使いも泣いてたのかもしれない」

勇者「まあそんなのはどうでもよくてですねー」

勇者「そんな事を繰り返してたある日の夜、俺達は凄いものを見たんだ」




29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:29:51.20 ID:5Ug8BclXo

勇者「どこまでも下へ続いてるような崖があってね。その場所を渡ると魔王の城までもう少しって場所だ」

勇者「そこでキャンプをしていたら、テントの外で魔法使いがキャーキャー叫んでた」

勇者「狂ったような声じゃなくてさ、歳相応の女の子が、綺麗な服を見て騒ぐような、あの暖かい感じで」

勇者「気になった俺と僧侶がテントから出ると、空一面で星が流れてた」

勇者「流星群っていうの? 偶然、見ることができたんだ」

勇者「つい数時間前まで、集落を潰して魔物の死体をザクザク切ったりして遊んでた魔法使いだけれど」

勇者「この時だけは子供みたいにさ。『すごいね』とか『綺麗』とか言っちゃってさ」

勇者「そんで、俺も僧侶もうなづいて、みんなで空をずっと眺めてた」

勇者「そしたら、魔法使いが言ったんだ」

勇者「『戦士にも見せたかったなー』って」

勇者「その辺の街中で、ふと言っちゃうような感じで。特別な感じでもなんでもなく言ったんだ」

勇者「次の日、魔法使いは居なくなってた」




30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:31:44.63 ID:5Ug8BclXo

勇者「崖の前に、魔法使いの杖と、これが置いてあった」

姫様「羊皮紙……まさか、遺書……?」

勇者「なのかなー?」

姫様「え? 勇者どのは中をご覧になってはいないのですか?」

勇者「いや見たよ? 俺も僧侶も中身を確認した」

姫様「でしたら、遺書ではない……? 中にいったい何が書かれてたのですか?」

勇者「見る? ほいよ」

姫様「あ、ありがとうございます。それでは…………ヒィッ!! こ、これは!?」

勇者「あっはっは。わかんないっしょ?」

姫様「うっ……うげっ……ケホッケホッ!」

王様「ひ、姫! 勇者様! まさかこの書に呪いを!?」

勇者「いんや、呪いの類はかかってないよ。正確には、呪いは『もう』かかってないだけど」

王様「ど、どういうことですか!」




31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:35:46.39 ID:5Ug8BclXo

勇者「まずその手紙、魔法使いの意思か意思じゃないのかわからんが、最初はとんでもない呪いがかかってた」

勇者「俺でも近くにいるだけで意識がゴリゴリ削られるようなシロモノでさー。弱い人間や魔物なら、近くによっただけで死んじゃったんじゃないかな」

勇者「んで、僧侶が必死になって呪いを解いたんだ」

勇者「そして、女の子の手紙だってのもあって、僧侶が見たんだけど、ショックで気絶しちゃってさ。丸一日は動けなかったねー」

王様「中にはいったい何が……」

勇者「ぐちゃぐちゃの血文字っつうか、血で描かれた絵」

勇者「一つだけわかるのは、魔法使いはこれを見た奴全員を呪ってると思うってことだけかな」

勇者「あいつ、世界がどこまで憎かったんだろうなー」

姫様「酷い……こんなの……こんな絵、人の描けるものじゃない」

王様「ひ、姫っ!」

勇者「姫様に全面的に同意だね。そんなもん描ける魔法使いも、それを見てもほとんど何も感じなくなった俺も、もうとっくに人じゃないんだろうなあ」

勇者「とまあ、魔法使いの話はこれでおしまい」

勇者「じゃあ最後。僧侶の話をはじめようか」




32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:44:24.47 ID:5Ug8BclXo

勇者「僧侶の死因については少し特殊なんで、問題は無しで。残念だけど勇者マークは諦めてね」

王様「…………」

姫様「…………」

勇者「さて、残りは俺と僧侶だけになった訳だけれど、結構大変だったのよこれが」

勇者「だってさ、戦力は1/2。しかも僧侶は戦闘職じゃない。そして、街に戻って仲間を集めてちゃ時間が足りない」

勇者「結果、俺達は逃げながら魔王の城へ向かった」

勇者「勇者とバレないようにみすぼらしい格好をして、魔物を騙し討ちして、泥水をすすって、獣みたいになりながら向かった」

勇者「もう中毒とか気にしてられなかった。超回復薬だって、それ以上に強い薬だってガブガブ飲んだよ」

勇者「ぐにゃぐにゃの景色を見ながら、何かの拍子にぶっつり切れちゃいそうな意識ではあったけれど、俺も僧侶も魔王の城まで生きて辿り着いた」

勇者「っと……」ぐらっ

王様「ゆ、勇者様!? 大丈夫ですか!?」

勇者「あー、大丈夫大丈夫。ごめん、ちょっと失礼して一服」




34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 14:49:27.58 ID:5Ug8BclXo

勇者「…………」スー……プハー……

王様「あの……勇者様、もしやその葉巻は……」

勇者「あー、うん。普通の葉巻じゃない。強い薬草と毒消し草を巻いて、煮詰めた聖水を染みこませた特別品」

王様「そんなものを……」

勇者「悪いね。でも、これ吸わないとさ、ほら」プルプル

王様「手が震えて……」

勇者「まあそういう事。ごめんねみなさん、もうちょっと待ってねー」プハー

シーン

勇者「うし、んじゃ続き。さて、どうにか魔王の城まで辿り着いた俺達だけれど、ここで俺がとんでもないヘマをやった」

勇者「魔王の側近に俺がいることがバレちまったんだ」

勇者「僧侶は運良く城の中で別行動をして情報を集めていたから大丈夫だったんだけれど、俺はそうはいかなかった」

勇者「どうにか魔王の側近は倒した。腐っても勇者だしね俺」

勇者「でも、俺も死んじゃったんだ」

勇者『魔王倒したし帰るか』Cへ続く
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