僧侶の手記@

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/01(金) 18:13:53.96 ID:5Ug8BclXo

僧侶の手記

今日、勇者から「一緒に冒険に行こう」と言われた。
とても嬉しい。反面、これから先の冒険の旅を思うと少し怖くもある。
ここまで書いている途中で、私の中に断るという選択肢が無いことに気付き、恥ずかしさと嬉しさを覚える。


旅立ちの初日、彼のもとへ行くと先客がいた。
彼と私の幼なじみでもある、戦士と魔法使いだ。
最近は、お互いの職が別のものでもある事もあり、疎遠になっていた。
特に、魔法使いとは彼のこともあり、自分から関わらなかった面もある。
私は臆病者だ。


冒険の旅に出て数日。
どうしても魔法使いとギクシャクしてしまう。
彼女は今も彼に想いを寄せているのだろうか。
こんな事ばかりを考える私は、本当に嫌な女だ。


今日、魔法使いに呼び出された。
彼女は泣きながら私を叩き、昔、彼に想いを寄せる私を見て身を引いたことを話してくれた。
そして、今の私を見るのは辛いと。こんな思いをする為に身を引いたのではないと言ってくれた。
私たちは、同じことを思って身を引いていたのだ。
ごめんね、魔法使い、勇者。




63 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/01(金) 23:38:28.59 ID:5Ug8BclXo

パーティー内の不和が解消された為か、冒険の旅は順調に進んでいる。
だが、別の問題が発生した。水と食料の問題だ。
今いる場所から次の村までは、どう見積もっても数日かかる。しかし、前の村まで戻るのも数日かかってしまう。
選択肢はそう多く無い。


近辺にいた、牛に似た魔物と蛇に似た魔物を食べた。
魔物の血で喉を潤し、魔物の肉で空腹を癒す。
どうやら蛇に似た魔物には毒性があったようで、先ほどから吐き気が止まらない。


鳥に似た魔物と、野生のリンゴを少し手に入れた。
リンゴを衰弱の激しい魔法使いに食べさせるが、全て吐いてしまった。
魔法使いの泣き声で眠れない。


眠れない。


ようやく村を見つけ、転がり込むように入った。
村は貧しく、食料はそんなに多く無いという。
村長へお金や道具を渡し、なんとか一晩の滞在と僅かな水と食料を分けてもらう。
村の住人は、私たちを心良くは思っていないらしい。
勇者のパーティーは魔物から狙われている存在で、そんな一味が居ることは百害あって一利なしという事なのだろう。
そんな状態でも、一晩の宿と貴重な食料や水を与えてくれたのだ。
彼らは悪くない。彼らは悪くない。彼らは悪くない。
神よ、我らを救い給え。




64 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/01(金) 23:53:19.86 ID:5Ug8BclXo

久しぶりのベッドで眠り、回復魔法と食事を取ったおかげで、魔法使いの容態はかなり良くなった。
村長から近くの街までの距離を聞く。
次の街まで早くて10日。今の私たちには絶望的な距離だ。
勇者と戦士と相談し、魔法使いには内緒にしようという事になった。


山道を黙々と進む。魔法使いの顔色はかなり悪い。
大丈夫と微笑む彼女を見ていると、涙が出そうになる。


小さな泉を見つけた。
子供のようにはしゃいで、水を思いっきり飲んだ。
幸せだ。神よ、ありがとうございます。


しばらく、この泉を拠点として行動する。
魔法使いは休ませ、二人一組の行動だ。
心の余裕が出てきたのか、勇者はずっと笑顔だ。
彼が笑顔だと私も笑顔になる。


それなりの食料を集め、水も補給した。
計算したところ、次の街までは後6日ほどか。
魔法使いの回復を待ち、出発することにする。


旅は順調。最近は魔物の味にも慣れてきた。


遠くに街が見えた。あと少しだ。
残った食料を使い、少しだけ豪勢な食事をした。
みんな笑顔だ。




65 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 00:03:57.63 ID:FrHhW4Y0o

街に入るのを断られた。
泣きながら私たちに謝罪する勇者の言葉が胸に響く。
彼は悪くない。街の人々も悪くない。
悪くない悪くない悪くない悪くない。
あの泉まで戻るか、先に進むか。
この選択肢を間違えたら、私たちは死ぬのだろう。
どこか達観している自分がいた。


勇者は先へ進むことを選択した。


自分の身体が自分の身体と思えない。
脚が重い。空腹と喉の渇きが酷い。
この辺りの魔物は毒性が強く、食べられないようだ。


魔法使いが倒れた。
戦士が背負って進む。私たちは進む。


喉が乾いた。


水。


みず


商隊が通りがかった。
彼らは、食料を求める私たちに、城一つ買えるような金額を提示してきた。
きっと多分、彼らは魔物なのだろう。
魔物だ。これは魔物が持っていた食料なのだ。
魔物の血の匂いが身体から取れない。
神よ、我らを救い給え。




66 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 00:15:54.69 ID:FrHhW4Y0o

魔物の商隊から奪った地図によると、近い街までどうにか行けそうだった。
今の私たちには、魔物の商隊が使っていた馬車もある。
これも神の思し召しか。


街の近くに馬車を停める。
馬車は魔物の血で汚れている為、余計な不安を与える必要もないだろう。
今夜はここで野宿だ。


商人の一団だと偽り、警備の兵へ僅かな金銭を与え、街へと入る事ができた。
今後はこうやって街や村へは入ることになるのだろう。
温かいベッドで眠り、美味しい食べ物を食べているのに、何故か涙が頬を伝う。


洗っても洗っても魔物の血の匂いが取れない。
魔法使いはずっと泣いている。
みんな眠れないのか、目の下のクマが酷い。


数日、街へ滞在を続けようと思う。
眠れないのもきっと今だけだ。
血の匂いが取れないのもきっと今だけだ。
忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。
弱くてごめんなさい。




67 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 00:32:05.95 ID:FrHhW4Y0o

勇者が奇妙な葉巻を吸うようになっていた。
吸うとよく眠れるそうだ。
私も吸いたいと言うと、勇者が悲しそうな顔をしたのでやめておくことにした。
眠れないのは辛いが、彼に嫌われるのは耐えられない。


勇者が明るい顔で移動魔法を覚えたと言った。
これで食料と水の問題はかなり緩和される。
神は我らを見放してはいなかった。


悪夢は見るものの、どうにか眠れるようになってきた。
時間とは神の与えてくれた免罪符なのかもしれない。


勇者が旅の再開をみんなに伝えた。
正直、気が進まない。だが、彼は勇者だ。私たちのリーダーだ。
戦士や魔法使いも不満はあったようだが、結局、明日出発することになった。


荷物をまとめ、出発の準備をしていた際、随分と荷物が減っていることに気付いた。
その減っている荷物の中に、勇者が大事にしていたいくつかの品が無いことにも気付いた。
彼に言うと、困ったような顔で「無くした」と呟いた。
ようやく私はわかった。
本当の商人でもない私達が、長期にわたって街に滞在するという事の現実を。
金銭は無限ではないことを。


次の街までの行程は順調に進んだ。
だが、私の心は重い。
勇者と戦士の間にも、以前のような気安い空気がなく、常に張り詰めた感じがする。
私たちは一体、何をやっているのだろう。




73 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 12:41:12.23 ID:FrHhW4Y0o

街へ到着し、宿で休んでいると勇者と戦士の部屋から怒号が響いた。
慌てて二人の部屋に向かうと、勇者と戦士が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
魔法使いの身を案じる戦士と、先へ進むことを選択した勇者との間で意見が割れたためのようだ。
魔法使いと協力し、どうにか二人をなだめる。
勇者が外へ頭を冷やしに行った際、前の街で私が気付いたことを二人に話した。
魔法使いは気付いていたようだが、戦士は唖然とした表情をしていた。
これが不和を解く切っ掛けになればいいと心から思う。


目が覚め、隣の部屋を覗いてみると、勇者と戦士がテーブルに突っ伏して寝ていた。
辺りに散乱する酒瓶を見るに、二人で夜通し飲み明かしたようだ。
昼過ぎに二日酔いで目を覚ました二人は辛そうではあったけれど、顔は晴れ晴れとしていた。
私たちの結束は深まったようだ。


街に滞在している間、各自で仕事を請け負うことにした。
勇者と戦士は近くの盗賊を捕縛する仕事。
私と魔法使いは、街の教会で蔵書の管理の手伝いだ。
冒険の旅よりも不思議と充実している。


勇者と戦士が戻ってきた。
報酬はそれなりの額があったらしく、豪勢な食事を取ることができた。
どんな事があったのか二人に尋ねると、口を揃えたように「大したことはしていない」としか返してくれない。
何故か胸に嫌なものが広がった。


路銀も増え、次の出発を明日に控える事になった。
買い出しの際、広場に貼り出された立て札が目に入る。
盗賊団が壊滅したらしい。
冒険者の手によって首領以外はその場で惨殺され、首領も本日、縛り首になったということだ。
淀んだ目で自分の手を洗い続ける勇者と戦士の姿を思い出す。
私は、二人に何が出来るだろう。何が出来ているのだろう。
ずっとそんな事ばかり考えている。




74 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 12:43:10.98 ID:FrHhW4Y0o

次に目指すのは、乾燥地帯にある小さな村ということだ。
水を多めに携帯し、馬車へと保管する。


村へ向かう途中の道で、いくつかの遺体を見つけた。
どれもミイラ化しており、魔物に食べられたのか破損が激しい。


埃が酷く、口の中に常に砂利を入れられたような感触がする。
髪がざらつく。水浴びが恋しい。
しかし水の量は目減りしており、余裕など無い。


この地方の魔物は筋張ってはいるものの、食用としても問題ない種類が多い。
水に関しては、偶然にも水分を多く含む植物を見つけることが出来た為、次の村までは何とかなりそうだ。


村は壊滅していた。


壊滅した村を散策してみたところ、井戸が枯れた事が原因であるのがわかった。
水を奪い合い、日々を絶望で過ごす村人たちの心境を思うと胸が痛い。
此処へ来る途中で見つけたいくつかの遺体は、この村の人のものだったのかもしれない。
神よ、彼らに安らかなる眠りを。


勇者の移動魔法で前の街まで戻り、食料と水を補充して壊滅した村まで戻る。
村の中にあった移動魔法用の魔方陣に破損がなかったのは不幸中の幸いか。
移動魔法の使用は披露が激しいらしく、勇者の顔色が悪い。
今日はこの村で一晩明かすことになりそうだ。
比較的、綺麗な家を選んで泊まることにする。

僧侶の手記Aへ続く
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