僧侶の手記A

75 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 12:51:06.31 ID:FrHhW4Y0o

戦士が、村の中を物色する案を出した。
強盗と変わり無い行為を咎めようと思ったが、戦士の辛そうな顔を見ると言葉が出ない。
結局、全員で村を物色する事となった。
私が担当した家で、子供の描いた絵を見つけた。
私にはこれから先、神に祈る資格はないだろう。


次の街は、砂漠の中にある街だという。
小さいながらも王の収める街であるため、支援を受けられるかもしれないらしい。
だが、期待するのはやめておくことにする。
希望から絶望へたたき落とされるのはもう嫌だ。


砂漠へと差し掛かった。
ここを抜けるまでは、昼は穴を掘って休み、夜に移動する事になる。
水が生命線だ。無駄遣いしないようにしなくては。


日陰の中でも容赦なく太陽の光が私たちを焦がす。
水を少しでも節約し、体力を温存するために薬草を口に含んで噛み続ける。
苦いと思ったのは最初だけで、今はもう何も感じない。
ただ機械的に口を動かすだけだ。


体力の消耗が激しい。
砂漠の敵は夜行性のものが多く、危険度も高い。
腕の傷がじくじくと痛む。


披露と油断を魔物に突かれた。
辛くも撃退には成功したが、魔法使いが死んでしまった。
蘇生のため戻るか、先へ進んで街で蘇生させるか。
勇者は進むことを選んだ。戦士は戻ることは選んだ。
私は……進むことを選んだ。




76 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 13:03:23.81 ID:FrHhW4Y0o

戦士が一言もしゃべらない。
戦士の次にお喋りな魔法使いは死亡しているため、とても静かだ。


魔法使いの腐敗が進んでいるのか、鼻を突く臭いがそこら中に漂う。
腐臭に寄せられてか、魔物の数も増えた気がする。
私の選択は間違っていたのだろうか。


馬車の中の魔法使いの遺体にハエがたかっている。
戦士が必死になって追い払ってはいるが、魔法使いの身体から湧いているのだから根本的な解決にはなっていない。
魔法使いの綺麗な顔はボロボロで、目が糸を引いてこぼれている。


ようやく街を見つけた。
もう鼻は麻痺し、何も感じない。
馬車にはなるだけ近寄らないようにしている。


街へ到着し、勇者一行であることを告げると、長い時間待たされた後に滞在を許された。
魔法使いの遺体は、馬車の中に入れたまま教会へ運ばれた。
戦士は教会へ同行し、私と勇者は宿へと向かう。
明日、王宮にて王と面会することになった。


王宮にて王と面会した。
少なくとも、私は好きになれない相手だ。
面会している間のねめつけるような視線が忘れられない。
面会の後、教会へ向かうが、魔法使いは面会謝絶とのこと。
明日、出直すことにする。




77 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 13:22:16.78 ID:FrHhW4Y0o

やはり面会は難しいとのこと。
だが、部屋の小窓から覗くことだけは許可された。
最初は意味がわからなかったが、覗いてみて納得した。
死ぬ瞬間のイメージ、蛆が身体を這い回る感触、腐敗していく感覚。
それらが魔法使いの脳と身体を壊し続ける。
拘束具をつけられ、よだれと涙を流し、自分の身体を掻き毟ろうと必死にもがく姿に、以前の優雅さは微塵も残ってはいない。
帰り際、戦士がぽつりと言った言葉が忘れられない。
『俺達は罪人だ』


お酒を初めて飲んだ。
とても不味い。だが、ふわふわとして色んなことを忘れられる。


勇者は部屋から出てこない。私も部屋から出ようと思わない。
誰か私たちを助けてください。


魔法使いが戻ってきた。
あれからどれぐらいの日が経ったのか、日付の感覚が曖昧だ。
魔法使いの頬はげっそりとこけ、一言もしゃべらない。
目だけが爛々と私を見つめていた。


魔法使いの回復を待っていたのか、全員、王に呼ばれた。
王から近場の遺跡に向かい、魔物の殲滅を命じられる。
数日の猶予を勇者が申し立てると、国で支払った魔法使いの蘇生の代金や、今の宿の代金などをたてに取られ翌日の出発を命じられる。
帰り際、王に私だけ呼び止められ、今後は王宮付きの司祭にならないかと誘われた。
王が私を司祭として求めていないことはわかっていた為、断った。
一刻も早く、この街を出たい。




91 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 23:51:18.75 ID:+qsO8+9IO

街から出発して遺跡に向かう間、誰も口を開かない状態が続いた。
その道のりの間、私は思考を停止させ、魔物を倒し、傷付いた仲間を癒すことだけに集中する。
神へ祈り、誰かを癒す回復魔法を私がまだ使えるのが不思議でたまらない。


遺跡に到着した。
王からの依頼も完了した。


街へと戻ったが、何もする気が起きない。


ようやく気分が落ち着いてきた。
旅を続けた結果、私は強くなったのだろうか。弱くなったのだろうか。
あの日の事は明日にでもここに残そう。
吐き出さないと壊れてしまいそうだ。


結論として、遺跡に魔物は確かにいた。
ただし、遺跡にいたのは小さな魔物やその母親と思われる魔物。
この魔物を残せば、いずれ大きくなり人の街を襲うのだろう。
頭では理解している。だが、身体が動かない。
勇者と戦士が泣きながら魔物を斬り、魔法使いが泣きながら魔物を焼き払う。
悲鳴が遺跡にこだまする。
「痛い」「熱い」「殺さないで」「許して」「許して」「許して」
悪酔いしたのか気分が悪い。記録はここまでにしてもう寝よう。
この人の言葉を理解し喋る魔物に関しては、後日、別の報告書を作成し、教会へと提出する予定だ。




92 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 23:52:23.13 ID:+qsO8+9IO

街を脅かし続けていた魔物の集団を殲滅したとして、街の中での私達は英雄扱いされた。
産まれたばかりの赤ん坊を一度抱いて欲しいと赤ん坊の母親に言われたが、やんわりと断る。
私達は英雄なんかじゃない。


勇者が次の街への出発を王へ進言したが断られた。
もし命に反するならば、罪人とみなすとまで言われた。
どうやら王は、私達を国の守り手とし、飼い殺しにしたいようだ。
街で噂されている隣国との戦争が近いという噂は本当のようだ。


何処でも監視の目が光っている。
精神的な疲労が溜まり、常に身体がだるい。


勇者が街からの脱走を提案した。
これだけの監視の中、気付かれずに逃げる事は無理だという事はわかっている。
逃げれば罪人の烙印を押される事もわかっている。
それでも誰も反対しなかった。
どうせ、私達はとっくに罪人なのだから。


必要最低限の荷物をまとめ、深夜に逃げるように宿を飛び出した。
監視者に見つかったのか、すぐさま街中に鐘の音が響き渡る。
怒号と悲鳴が響き渡る中、私達は走り抜けた。
途中、家の中から怯えた目でこちらを見つめる、赤ん坊を抱いていた母親を目の端に捉えた。
きっと彼女は、自分の子を英雄にしようなどとは思わないはずだ。
どうかその子が、普通の人生を歩みますように。


食料も水も僅かしか持ち出せず、馬車も無い。
それなのに、どうしてこんなに晴れ晴れとした気分なのだろう。
この夜空がとても綺麗だからかもしれない。
今日は昨日よりよく眠れそうだ。


この国に長く留まるのは危険な為、隣国へと急ぐ。
隣国は海に近いと聞いて、思わず心が踊る。
おとぎ話に聞いた巨大な湖をこの目で見られるのだ。
海は、この身に溜まる罪を洗い流してくれるのだろうか。




105 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 00:31:06.72 ID:kJm+5Oklo

通常の隣国への道は整備されており、旅にも不都合は少ないのだが、私たちは追われる身。その道を通ることは出来ない。
景色は緑が増え、身を隠すにはちょうどいい。
夜露で喉を潤す。


持ち出した地図が正確ならば、このまま山道をぐるりと迂回する形で隣国の端の村まで辿りつけるはずだ。
せめてそこまで辿りつくことが出来れば、移動魔法で砂漠の国を経由せずに自国と隣国を行き来できるようになる。
進むしか無い。


食料が心もとない。
道すがら数種の魔物を倒し、食料に適した種を探す。


戦士が朝から、激しい嘔吐と下痢を繰り返す。
昼に食べた魔物が原因か。豚に似た外見に騙された。
解毒の魔法の効きが悪い。今夜は眠れなさそうだ。


どうにか戦士が持ち直すものの、立つのもやっとという状態だ。
魔力の消費をしすぎたのか、頭痛が止まらない。


気がつくと勇者の背に背負われていた。
どうやら私は倒れたらしい。
ぽつりと勇者が「ごめんな」と言った。
弱い自分がまた嫌いでたまらない。


私に続いて、戦士と魔法使いが倒れた。
私たちはここまでか。


勇者が単独で村まで向かった。
動けない私たちは、山で見つけた小さな洞穴で彼を待つ。
夜が怖い。




107 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 00:55:08.26 ID:kJm+5Oklo

指が震える。文字を書くのも辛い。
魔物の声が近い。


ここ数日の記録は後日残そうと思う。
一つ言えること。
今、私たちは生きている。


魔物の声が近いと記した後、私たちの匂いを嗅ぎつけたのか、狼のような魔物が数匹現れた。
どうにか撃退するも、戦士の傷は深い。


癒しの魔法を限界まで使い、気絶しては起きてまた使う。
出血が激しかったためか、戦士はしきりに寒いと言う。
夜、魔物が群れをなしてやってきた。
戦士は虫の息だ。


私も魔法使いも傷だらけ。戦士はいつ死んでもおかしくはない。
私が覚えているのはここまで。


勇者が戻ったのはそれから三日が過ぎてからだったという。
私たちの遺体は激しく損傷していたものの、蘇生に必要な1/2は残っていたらしい。
獲物を保存する習性を持っていた魔物に救われるとは、皮肉なものだ。

僧侶の手記Bへ続く
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