僧侶の手記B

108 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 01:20:57.82 ID:kJm+5Oklo

死ぬという事。蘇生するという事。
変わり果てた魔法使いの姿を見て理解していたつもりだった。
自分の認識が甘かったことを痛感させられた。
生き返ってからのことは思い出したくない。


勇者が辿り着いた村には、移動魔法用の魔方陣はあるものの、充分な施設はなかったらしい。
結果、私たちは今、故郷で静養している。
家族は私を見て一日中泣いた。
私はそんな家族を、遠いものに感じていた。


身体が動くようになって数日後、教会の孤児院で養っている子供たちが私のお見舞いに来てくれた。
今の私は彼らの目にどのように映っているのだろうか。


次の日、誰ともなしに勇者のもとへと集まった。
翌日、旅を再開することが決まった。
決して使命にかられてなんかではない。
知り合いの多いここにいるのは辛すぎるからだ。
家族には旅を再開することを告げなかった。
ただ、手紙だけは残しておく。
「ごめんなさい」
それだけを書いて。


移動先の村で宿を取り、久しぶりに4人で話した。
これまでのこと、これからのこと。
自分のこと、みんなのこと。
お酒を初めて美味しいと感じた。




111 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 01:41:42.84 ID:kJm+5Oklo

村の人から馬車を譲ってもらった。
決して安くはないものの、これで随分と楽になる。
早く海が見たい。


風の匂いに違うものが混ざり始めた。
どことなく、空気がベタついている感じだ。
だが、決して不快ではない。


海を見ることができた。
この感動をどう現していいかわからない。


港町へ到着した。
入国は実にあっさりと終わり、拍子抜けしてしまう。
宿に入り休んでいると、この国の兵が現れ、明日の謁見を命じた。
明るかったみんなの表情が一転して暗いものになる。
いつでも出られるよう、荷物だけはまとめておこう。


翌朝、兵によって案内された城は驚くほどに小さいものだった。
故郷のものや、砂漠の国の城よりも二回りは小さい。
更に、王にも驚かされた。
私とそう歳の違わない女王。それがこの国の王。
謁見はあっさりと終わり、私たちは数日の滞在を許された。
何か裏があるように思えて仕方ない。


街で食料や水、装備品を買い込んだ。
様々な人が行き交い、活気が凄い。目に映るものは珍しいものばかりだ。
買い物の際、いくつかのうわさ話を聞くことができた。
海向こうの国との交易により、この国は豊かであること。
女王は若くも思慮深く、民に慕われていること。
砂漠の国の物価が上がり、そこからの交易品が品薄になっていること。
次の目的地は海向こうの国になりそうだ。




112 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 02:08:46.42 ID:kJm+5Oklo

海向こうの国へは、どうやっても船で行くしかない事がわかった。
問題は、その為に必要な旅費だ。
日の余裕が無い私たちは、女王へと相談を持ちかけることにした。
せめて旅費が貯まるまでの滞在を許されればいいのだが。


長期の滞在は許されなかった。だが、事態は大きく変化する。
みんな戸惑うばかりだ。
女王の目的がわからない。


女王は滞在の代わりに、旅費の支援を提案してきた。
対価は滞在の間、謁見を決まった時間に行うというものである。
謁見の場にて女王はこれまでの旅の話を聴かせるように命じた。
話の後、宿に戻った今も理由はわからない。


女王は様々な質問を返してきた。
冒険の旅が決して英雄譚などに語られる希望に満ちたものではないこと。
食料や水など、様々な問題が山済みであることなどを話すと、しきりに頷いては何かを記録していた。
目的がわからない分、不気味さを感じる。
翌日の謁見は私と魔法使いのみが呼ばれた。
相手は女性ではあるものの王であることに変わりはない。警戒を強くする。


なぜ女王は私たちの話を聞き、涙を流したのだろう。
しきりに私たちに謝る彼女に、私も魔法使いも困ってしまった。
ただ、不思議と悪い気持ちではなかった。
その日の夜、久しぶりに魔法使いと私は同じ部屋で語り明かした。
彼女と笑って話をしたのはいつ以来だろう。
奇妙な女王に感謝を。


早朝、兵に起こされ出国を命じられた。
理由を聞くも、私たちには知る権利は無いとだけ言われる。
少しでも信じた結果がこれだ。笑ってしまう。
まるで囚人のような扱いで、急き立てられるように船に押し込められた私たちの表情は、とても無機質なものだった。




114 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 02:33:05.56 ID:kJm+5Oklo

海向こうの国まで2日ほどだと船長に言われた。
船員たちはどこか余所余所しく、私たちも進んでは話そうと思わない。


船酔いが辛い。陸が恋しい。
泣いている女王の夢を見た。
いつの日か、彼女の目的や涙の理由がわかる日がくるのだろうか。


6つの大国の4番目。海向こうの国へ到着した。
船は私たちを降ろすと、別れの言葉もなく去っていった。
これを書いている今も気分が悪い。今日は早く眠ろう。


気分は優れないが、時間は待ってはくれない
早く荷物の整理をし、出発に備えなくては。
次の目的地は、この国の王がいるという街だ。


なんで彼女は何も言ってくれなかったんだろう。
後悔だけしか残らない。


荷物の整理をしていた際、見覚えのない手紙があった。
それは女王からの手紙で、そこには彼女の真実が記されていた。
彼女が誰よりも勇者に憧れ、冒険譚に胸を躍らせる少女であったこと。
現実の私たちを知り、自分の無知を恥じたこと。
自分の国が、民が大切であること。
隣国の砂漠の国が宣戦布告してきたこと。
おそらく、自分たちは勝てないであろうこと。
それでも民も、自分たちも立ち向かうことを。
最後にはこう書かれてあった。
『それでも、逃げない勇気をあなた達がくれた』
『あなた達の旅に幸あれ』




124 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 16:30:37.35 ID:kJm+5Oklo

次の街までの旅が始まった。
次に出会う王はどんな人物なのだろう。
あの女王と懇意だったとあれば、人格者なのではないだろうか。
手紙と一緒に入っていた紹介状が役に立つと良いのだが。


魔物の強さが増して来ている。
更に、人形のものも増えてきた。
食料に余裕のある今はいい。だが、今後はどうなるのか。
考えるのが怖い。


街道の道すがら、壊れた馬車を見つけた。
壊れ具合を見るに、魔物ではなく野盗に襲われたようだ。
敵は魔物だけではない。


警戒のために二人一組で寝ずの番をする。
私と番をすることになった戦士がぽつりと言った。
『俺達は何のために戦っているのだろう』
私は答えられなかった。


勇者と魔法使いが番をしていた際、野党が現れたらしい。
相手は飢えていたのか、私と戦士が起きる前に苦も無く撃退できたとのこと。
だが、魔法使いは精神的に辛いようだ。
炎の魔法で焼いた相手の悲鳴が耳から離れないらしい。
今は薬で眠らせている。
彼女を落ち着かせるのに必要なものは、神の言葉や祈りではなく、人の作った薬と時間だけだろう。
自分の存在意義を疑問に思う。


2度目の野党の襲撃。
相手は農民崩れなのか、鍬や鎌を手に持ち襲ってきた。
メイスで殴りつけたときの感触が手から離れない。




125 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/04(月) 17:01:54.72 ID:kJm+5Oklo

街が遠くに見えてきた。
今日中に辿りつけるだろう。


街にたどり着き、王女からの紹介状を渡した後、私たちは投獄された。
その際にこの手帳も没収されたため、その期間のことを今から記そうと思う。


投獄されてすぐ、勇者の尋問が始まった。
絶叫が響く中、隣の牢から魔法使いのすすり泣く声が聞こえる。


尋問を受ける。
何度殴られたかわからない。
私達は女王を騙してなどいない。


魔法使いの悲鳴がこだまする。
勇者と戦士のいる牢からはうめき声だけが聞こえる。
私も似たようなものだろう。


この日、私たちの死罪が決定した。
でっち上げられた罪状は、王族への詐称と戦争幇助。
怒り狂う王の顔が印象的だった。
王女と恋仲であった王の復讐。と聞けば綺麗なのかもしれない。
実際に王が叫んでいたのは、王女の国との交易による損害ばかりであったが。
これで尋問の日々が終わるのだと思うと、恐怖心よりも安堵の方が大きかったことを覚えている。


再度牢に入れられて三日目の深夜。
外の喧騒が大きくなったかと思うと、慌てた顔で兵が飛び込んできた。
どうやら魔物の襲撃があり、兵の数が足りないのだという。
荷物を受け取り、外へと出された後、回復魔法や薬による手当を受ける。
魔物の数は多く、街の損害は多大なものになった。
この中で私たちは多くの魔物を討ち取り、大罪人から一転して救国の勇者の扱いを受けることとなった。
そしてこの日、この国の王は逃亡し、その道中に魔物に襲われ死亡したとも伝えられた。

そして今、私たちは5つめの国を目指している。
途中で出会った旅の商人からうわさ話を聞いた。
あの国の王が死に、今後は内乱が続くであろうこと。
だが最早、私たちには関係の無いことだ。




137 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/05(火) 05:57:23.17 ID:RffJ7xz2o

次の国は魔法が盛んと聞く。
魔法使いが少しだけはしゃいでるようにも見える。


滞在予定だった村は、魔物の手によって壊滅していた。
つんとした腐臭が立ち込める。
壊滅した後に野党にあさられたのか、目ぼしい物は何も残ってはいなかった。
予定を変更し、先にある街を目指す事にする。


魔物が集団で襲ってくる。
知性が高く、対処に戸惑う。


以前、砂漠で出会った魔物と同じように、言葉を理解する魔物がいた。
どうしても武器を振るう腕が鈍る。


自分の叫び声で目が覚める。
番をしていた勇者が悲しそうな目で私を見ていた。
きっとひどい顔をしていたのだろう。


食料が減ってきている。あれを食べるしか無いのか。
だがそれは人食いと何が違うのか。


見た目は干し肉だが、口に入れた瞬間にあの魔物の姿が目に浮かび戻してしまう。
水で無理やり飲み下す。

僧侶の手記Cへ続く
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